人には言えない小説

どろどろの色欲にまみれつつ、どこまで平然とした顔が出来るか見ものですね。
ジキルとハイドが如く、その微妙なバランスを保つことって美しくないですか?

#2


「はぁ・・。」

なんであんなことをしてしまったのかわからなかった。


なぜあの人に会ってしまったのだろう・・・。


結局朝まで、何度もなんどもお互いを求めて夜があけた。

なぜここまで相手を欲しがるのかわからなかったし、普通すぎる私たちのような人間がこんなに欲望のまま動き続けることは、今まであっただろうか。


「どうした?」

こんな馬鹿なことを考えていたら、恋人が私の顔を覗き込んで来た。


「なんでもないよ?ちょっと仕事うまくいってなくて・・。」

「椿は本当いつも頑張ってるもんなぁ。休みの日まで仕事のこと考えられるなんて尊敬だよ。」


皮肉ではないのだ。

この人は本当に私を尊敬のまなざしで見つめ、私の心がまるで昨日生まれた赤ん坊のように純粋であると信じている。イギリスのキリスト教の如く、それは誠実で倫理的かつ厳粛な透明性のあるものだと。


実際私はそうであった。

自分に厳しく、社会人の一人として仕事を愛し、まともな生き方を心がけていた。

「普通が一番」と思い、当たり前にこの人と結婚し、子供を授かり、仕事をして、時が来たら家族に見守られて死にゆく、そんな平凡な日々を思い描いていたのである。

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