人には言えない小説

どろどろの色欲にまみれつつ、どこまで平然とした顔が出来るか見ものですね。
ジキルとハイドが如く、その微妙なバランスを保つことって美しくないですか?

#12

会社帰りの電車の中。
資格試験も終わったし、と久しぶりに彼氏と夕ご飯を食べることになった。


実は、彼のマンションまでは、会社から私のアパートに行くよりも近い。
電車で1回乗り換えて数十分、駅から歩いてすぐ。


それでも同棲しないのは、自分の時間は欲しいと彼が言ったからだ。
頼み込んでまで人のうちに住ませてもらおうなんて思えなかった。
ただ、その時は「そっか・・。」と少し残念だった。


明日はお互いに休みだし、泊まることになるのだろう。
彼は早めに仕事が終わり、マンションに帰っているらしい。


最近会えてなくて申し訳なかったなと思いながら、
途中の小さなケーキ屋さんでショートケーキを二つ買った。


二人で食後に、甘いものを食べながら紅茶でも飲めたら素敵だなと思った。

お店は閉店間際で、ケーキはもう3つしかなかったし、いつもより安くなっていた。


「あの人、いちごのショートケーキが好きなのに・・・。」

残念だけど、仕方ない。チーズケーキで手を打とう。



電車を乗り換えたらちょっと人が多くて、ケーキが潰れないか心配だった。
チーズケーキでよかったと、ちょっと神様に感謝した。


この時間の電車は酔っ払っている人も、疲れて立ちながら寝ている人も、
部活帰りに寄り道した高校生も、仕事が終わりきらずパソコンを打つ人もいる。


席もないので仕事もできず、暇な私は、
電車に乗りながら、そんな人たちを観察することにした。


私の近くには大学生くらいの若い男の子が二人で乗っていた。
不意に人にが、口を開けたようだった。


「俺の前の女の人、美人?」


一人からは私の顔が見えるけど、私の体が触れているもう一人からは見えない。
自分が美人の体に触れているのか、ブサイクの体に触れてるか気になったらしい。


こそこそ話して、失礼なやつだと思っていたら


「美人だよ。お前のタイプ。」
「まじ?いい体してるから気になった。声かけちゃおっかな」


思ってた言葉ではないことに驚きにながら、体はカーッと熱くなった。
年下の男の子にそんなことを言われるのは、恥ずかしかった。


心なしかさっきよりぴったり私にくっついているように感じた。
自信過剰よと自分に言い聞かせながらも、触れている部分から腰にかけて電気が流れるような気がした。


私が恥ずかしそうにしている姿を見て気がついたのか、私の顔が見える男の子はそれ以上何も話さなかった。


少し大きな駅について、人がどっと去り、また大勢の人が流れるように入ってきた。
さっきよりも人が多いなり、息苦しかった。


先ほど黙り込んだ男の子はここで降りたらしい。
もう一人の子はまだいて、人が多くなった電車の中でさっきよりも密着せざるをえない。


さっきよりも気持ちは落ち着いたけど、なんとなく気にはなる。


そのとき、くびれから腰に電気が走った。
誰かの指が体をなぞっていた。


間違って触れてしまっただけかと思ったが
今度は太ももの内側をなぞられる。


片手で腰を固定され、先ほどから熱くなっている場所を撫でてくる。
ビクビクっと筋肉が動くのがわかった。


私の反応を見て、騒がないと安心したのか
相手は下半身の固いものを押し付けてくる。


下着の中に指が入り、私の恥ずかしい部分から蜜がだらっと溢れた。


きっと相手の指を、濡らしてしまったのだろう。
その指は、茂みを分けて奥に押し入ってくる。


「お姉さん、感じちゃってるの?」
耳元でさっきの男の子の声が聞こえた。


そのときまた、電車が停止し人の流れが私を電車から押し出す。
私はそれに身を任せた。


ホームに投げ出されるように降りた時、ハッと我にかえって、
同じ電車に乗るのはやめた。


危なかった。


危なかった?でも、何が?
なぜ私は叫べなかったの・・・?



私は前からMっ気はあったのかもしれない。


初めて男の人と交わってその行為に慣れた頃、
両手を男性に抑えられながらすると
いつもより興奮すると気がついた。


耳や乳房をいつもより強く噛まれたとき、
痛みより痺れるような快感が駆けた。


白く柔らかい臀部を強く掴まれながら後ろからされて、初めてイッた。



だから元彼にいつもと違うところに入れようと言われたときも
なんとなく受け入れてしまった。


結局それを気に入ったのは私だけで、それっきりだったのだけど。



いつもと違うことがしたい。
あの時のような行為を、私が望むようにしてくれる人はいるのか。

たまに会うあの人は、相性はいいけれど、私が求めてるものとは違うような気がする。

この前はじめて会った人は、思ってたより冷たくて、写真より格好良くもなかった。


言えた身分でもないが、メールだけで男性に会うのは、もうまっぴらだと思った。



だからと言って、身近に私と同じようなことを考えている人がいるわけないよね。
いたとしても気まずいだけじゃないの。



溢れる好奇心と欲望を、まともな理性でねじ伏せた。


私ってば、おバカさん。
そう言い聞かせて電車を降りた。

×

非ログインユーザーとして返信する